長崎市公会堂の解体中止と再使用に関する住民投票条例の反対意見書1回目(田上富久長崎市長)

田上富久長崎市長は、長崎市公会堂の解体中止と再使用に関する住民投票条例の請求に対し、平成28年9月1日の市議会本会議で反対を表明しました。市長提出の意見書全文を掲載します。

※尚、下記の意見書画像をクリックすると、PDFデータでもご覧いただけます。

意見書ページ01

意 見 書

1 請求に対する考え

 長崎市公会堂の解体中止と再使用に関する住民投票条例(以下「本条例」という。)は、現在、既に廃止され、解体予算が議決されている旧公会堂の解体中止と再使用することについて、住民投票により賛否を問うものです。

 これに対し、旧公会堂の解体中止と再使用に反対する立場から、本条例は制定すべきでないとの考えを表明し、以下意見を述べさせていただきます。

 旧公会堂につきましては、平成21年度に実施した耐震診断の結果、大規模な地震に対する耐震性能が不足していることが判明しました。

 また、建設から50年を経て、施設や設備機器の老朽化は著しく、応急処置的な修繕では問題を解決できないほど厳しい状況にあり、安定的な運営が難しくなっていました。

 さらに、現代の文化施設としては、座席配置が窮屈であること、トイレの数が少ないこと、バリアフリーに対応していないこと、楽屋の数が不足していること、練習室を備えていないこと、搬入口が使いにくいことなど構造的な問題点を多数抱えていました。

 そこで、平成23年2月に、長崎市の大型施設の整備方針として、公会堂の市民の芸術文化活動の場という機能は今後も必要であり、市庁舎の建替え計画の具体化と並行して、機能の確保の方法について、引き続き検討することを表明いたしました。

 これを受け、旧公会堂が持つ文化施設としての機能や長崎市の将来の文化施設のあり方についてご意見をいただくために、平成23年度に、学識経験者、文化団体及び利用団体の代表者、舞台技術者並びに公募した市民からなる「公会堂等文化施設あり方検討委員会」を設置し、様々な角度から検討していただきました。その結果、同委員会から「公会堂は歴史的にも、長崎国際文化センター建設計画の一環の中で建設され、DOCOMOMO (ドコモモ)近代建築100選に選定された近代建築物として評価されていますが、文化施設の価値としては、現状では高くない状況にあり、老朽化、耐震結果を受けて、不足する機能を確保するためには建て替えるべきとの方向で意見は一致した」 という報告 をいただいたところです。

 なお、 「公会堂等文化施設あり方検討委員会」の協議状況は、並行して設置された「長崎市庁舎建替に関する市民懇話会」及び市議会の「市庁舎建設特別委員会」におきましても、随時報告をしながら協議を進めてまいりました。

 また、平成23年度には、「市役所建替えなどに関する市民アンケ ート」を実施し、その中で、旧公会堂に関する長崎市の方針や必要な文化施設の機能などについてのご意見をいただいています。

 このように、様々な機会を設けながら、いただいたご意見を踏まえ、平成25年1月には、限られた財源と現在から将来に向けたまちづくりの考え方を勘案した結果、 「公会堂については解体し、新たな文化施設により市民の芸術文化活動の発表・鑑賞の拠点としての機能を確保すること」及び「その整備場所は、現市庁舎跡地を念頭に考えること」を方針決定いたしました。

 そのような状況の中、旧公会堂につきましては、平成26年2月市議会定例会において「長崎市公会堂条例を廃止する条例」を提案しましたが継続審査となり、次の平成26年6月市議会定例会において、附帯決議を付して可決され、平成27年3月末をもって廃止しています。

 また、その審査の過程においては、請求代表者が代表である旧公会堂の存続を求める団体からの2度にわたる陳情も行われており、その際には、陳情者から今回と同じ主旨の意見が述べられ、質疑が行われたところです。

 さらに、旧公会堂の解体工事費を含む関連予算につきましては、平成28年6月市議会定例会においても、改めて現地調査を行うなど丁寧にご審議いただき、可決されています。

 一方、新たな文化施設の建設につきましては、平成26年4月に出された「長崎県県庁舎跡地活用検討懇話会」による提言において、主要機能候補の1つにホール機能が掲げられたことから、近隣での機能の重複を避け効率的に整備できることや、現市庁舎跡地への建設と比較して早期の完成が見込めること、県庁舎跡地に一層の賑わいを生み出すことができることなどを理由として、県との協議に取り組むことになり、平成26年7月には、県に対して「1,000席から1,200席の規模で、音楽や演劇に高いレベルで対応できるホール」を提案するなどし、協議を進めています。

 その後、県においては、平成28年2月の県議会で、県庁舎跡地活用の基本的な考え方として、「広場」、「交流•おもてなしの空間」、「質の高い文化芸術ホール」といった方向性を中心に検討したいとの方針が示され、併せて、「平成32年度の工事着手を目標とする」ことも示されました。

この考え方を受けて、現在、県庁舎跡地活用の整備方針の策定に向けて県との調整を進めているところです。

 また、旧公会堂を再使用することは、これまで積み重ねてきた謙諭とその中で至った結論や方針決定に基づく市庁舎建替えなどの様々なまちづくりの取り組みに支障をもたらします。さらに、公共ホールのあり方としても、旧公会堂の存続と県に提案している新たな文化施設の建設の両立はあり得ないことから、整備方針の取りまとめの協議を行っている県庁舎跡地活用に関する計画にも波及するものとなります。

 以上、長崎市が旧公会堂を廃止した理由、廃止が決定された経緯、県庁舎跡地での新たな文化施設建設に向けた協議の状況及び旧公会堂が廃止され解体予算も可決されている状況を覆すことによる、今後のまちづくりに与える大きな影響を勘案しますと、旧公会堂の解体中止と再使用は認められないことから、住民投票を実施するための本条例の制定について反対するものでございます。

 2 請求の要旨に対する考え

 請求の要旨について、意見を申し上げます。

(1)請求本文について

 「新施設の完成までには10年前後の時間を要するものと思われます」との記載部分につきましては、先程述べましたとおり、県庁舎跡地活用について、県は「平成32年度の工事着手を目標とする」との考え方を示しており、現在、整備方針の策定に向けて、県市の協議を進めているところです。

 次に、「すでに従来から公会堂を利用してきた市民の多様な文化活動や芸術鑑賞機会に著しい支障、停滞が生じているのは明白な事実です」との記載部分につきましては、旧公会堂に代わる新たな文化施設ができるまでの間、文化団体や市民の皆様にご不便をお掛けしておりますが、ブリックホール大ホールの利用におきましては、文化団体などを対象として、市民優先日の設定や減免制度の拡充などの方策を実施しています。

 次に、「せめて新しい代替施設が実現するまで公会堂の解体を中止(予算の執行を留保)し、それの再使用を可能とする方策を講じることは、市行政を与かる当局にとって当然の責務と考えます」という記載部分につきまして、意見を申し上げます。

 文化施設の運営においては、芸術文化活動や芸術鑑賞に必要な快適な環境を提供し、安全安心かつ安定的な運営を行う責務があると考えます。しかしながら、先程述べました理由により、旧公会堂ではその実現が難しくなったため廃止することとし、芸術文化の表現の場として十分な機能を備えた誰にとっても使いやすい新たな文化施設の整備によって、その問題点を解消する方針を決定したものです。

 仮に、新たな文化施設が整備されるまで旧公会堂を一時的に再使用する場合、耐震性能の不足、建物や設備の老朽化など、閉館理由とな った事由を一定解消し、最低限の環境を整える費用として、平成26年6月市議会定例会におきまして、約13億円を要するとの説明をさせていただきました。

 一方で、県庁舎跡地の整備について、順調に行けば平成32年度の工事着手とされており、旧公会堂の改修に2年ほど要すると仮定しますと、再使用できる期間の見込みは、3年程度となります。

 従って、公会堂の再使用は一時的であっても考えられません。

 また、請求代表者の主張においては、市民の文化活動等に著しい支障などが生じているとの理由から、「せめて新しい代替施設が実現するまで」と旧公会堂の一時的な使用を求める一方で、「新施設の整備より安価となる」ことや、市庁舎の建替え場所についても言及し、併せて公会堂が有する歴史・文化遺産的価値などについて明らかになってきたことも理由として、旧公会堂の永続的に長期にわたって使用を想定するような記述をするなど、再使用に至る理由の違いもあり、旧公会堂を再使用する期間の考え方について、新たな文化施設が完成するまでの一時的な使用なのか、永続的な長期にわたる使用なのかが、明確に示されていません。

(2) 請求の要旨の(1)について

 請求の要旨の(1)のうち、「公会堂を再使用するためには、最低限その設備更新は必要で、併せて耐震補強と現状の不備を補う大規模改修が望ましいと考えます」との記載部分につきまして、意見を申し上げます。

 長崎市では、旧公会堂をその外観を残したまま建物を存続させるためには、平成26年6月市議会定例会におきまして、耐震補強を含む大規模改修に約31億円を要するとの説明をさせていただいていますが、その場合においても敷地の制約や建物の構造上の問題から、バリアフリー化が必要な箇所の一部、狭いとされる搬入口、舞台袖の拡張及び練習室の確保などの文化施設として改善が必要な課題を解消することができません。

 次に、「このためには25億円程度を要しますが、新施設の整備より安価となることは確実です」という記載部分につきましては、請求代表者が主張する25億円程度という改修費の根拠が示されておらず、また、過去に市議会での陳情の際に述べられた見解においても、他都市の事例では、約60年前の建築当初の費用の約10倍程度で大規模改修が行われているといった説明がなされるに留まり、請求代表者が主張される25億円程度の改修で旧公会堂が抱える課題の全てを解消できるのかどうかも不明であることから、論拠に乏しいものと言わざるを得ません。

(3)請求の要旨の(2)について

 請求の要旨の(2)のうち、「長崎市公会堂を解体することは、元来、その跡地に市役所を新築するためであった」との記載部分につきまして、意見を申し上げます。

 公会堂等の文化施設のあり方の検討と市庁舎建替えの検討については、それぞれに並行して行っており、平成23年度に設置した2つの懇話会からの意見、さらには議会での議論を踏まえ、長崎市の将来のまちづくりの考え方や限られた財源などを考慮した結果、「公会堂は解体し、新たな文化施設により市民の芸術文化活動の発表・鑑賞の拠点としての機能を確保する」ことを決定し、一方、市庁舎については、建替えを検討するエリアの決定を経て、最終的に「公会堂及び公会堂前公園敷地に建て替える」ことを決定したものです。よって、市役所を新築するために公会堂を解体するという請求代表者の主張は、事実と相違があるものと考えています。

 次に、「この検討の過程では、公会堂が有するその歴史・文化遺産的、建築的、都市景観的価値については、情報不足もあって十分に認識されていたとはいえません」との記載部分につきましては、長崎市としましても、旧公会堂に関する様々な価値は認識したうえで、最も重要なのは文化施設としての機能であるとの判断から、必要となる機能を満たしていない旧公会堂は廃止し、新たな文化施設によりその機能を確保すると決定したものです。

 また、先程述べましたとおり、「公会堂等文化施設あり方検討委員会」や「長崎市公会堂条例を廃止する条例」の議会審査においても、旧公会堂が持つ価値を十分に認識されたうえで、議諭がなされています。

 一方で、旧公会堂建設の礎となった、長崎国際文化センター構想の精神は、現在も世界都市、人間都市を目指す長崎市のまちづくりに引き継がれていますので、この精神を新たな文化施設にもしっかりと継承するとともに、長崎国際文化センター構想にまつわる経緯 の情報発信についても、より良い方策を検討してまいります。

(4) 請求の要旨の(3)について

 請求の要旨の (3) のうち、「市役所をどこに新築するかについては、ふつうに現在地建替えか、さもなければ県庁舎跡地(その周辺を含めて)に再挑戦するのも一 法でしょう」 との記載部分につきまして、意見を申し上げます。

 市庁舎の建替えにつきましては、平成23年2月に建替えを検討するエリアを「現在の市庁舎がある場所から公会堂を含む一帯とする」ことに決定し、その後、市議会での議論、市民懇話会や市民アンケートなどを通じた市民の皆さんのご意見を踏まえ、多面的な評価・検討を行いました。

 その結果、(1)現地建替えに比べて施設計画に制約条件が少なく、 1 棟にまとまり、より良いサービスを提供できること、(2)防災拠点としての安全性も確保した庁舎が早期に実現できること、(3)工事期間が短いためコスト的に有利なこと、 (4) まちなか軸に一歩近づくことで、まちなか・市庁舎双方の交流と賑わいが期待できることなどの理由から、平成25年1月に建替え場所を「公会堂及び公会堂前公園敷地」とすることを決定しています。

 また、この方針は、現在から将来にわたる長崎市のまちづくりを考えたものであり、陸の玄関口である「長崎駅周辺」、歴史的な文化や伝統に培われた長崎の中心部である、新大工町から中通りを経て南山手に至る「まちなか地区」、海の玄関口である「水辺の地区」といった3つの拠点を上手く連携させ、都心部全体の人の回遊性の維持や中心市街地の活力の向上を図っていくという考え方に基づいたものです。

 なお、請求にある現在地建替えとする場合は、現在の庁舎の一部を仮移転しながら段階的に新庁舎を建設していくことになるため、旧公会堂及び公会堂前公園敷地での建替えと比較して、完成までに期間を要するとともに、新庁舎のレイアウトの自由度も低くなります。加えて、仮庁舎の建設が必要となることや工事期間の長さから事業費も増大します。

 このような様々な要素を比較検討した結果、市庁舎の建替え場所については、現在地よりも旧公会堂及び公会堂前公園敷地を選択すべきと判断したものであり、現在の方針は適切であると考えています。

 また、県庁舎跡地については、県が設置した懇話会において、行政機能を置くべきではないとする提言が取りまとめられており、この懇話会の提言や県議会での議論を踏まえた県の基本的な考え方として、 3つの方向性を中心に検討したい旨の方針が示され、これに基づき、現在県市において整備方針の策定に向け具体的な協議を進めているところであり、県庁舎跡地に市庁舎を建設する考えはありません。

 次に、「計画時点での必要面積の算定や整備スケジュールも、最近の時代情勢の推移に鑑みて早急に見直すべき時期に到っていると推察します」との記載部分につきまして、意見を申し上げます。

 新市庁舎の面積につきましては、「基本機能」として、執務室、会議室、議場など、「付加機能」として、市民も利用できる多目的スペース、情報コーナーなど、さらに 「共有部分」として、災害時の一時避難場所ともなるエントランスホールなど、必要となる面積を梢算したものであり、他の自治体の庁舎建設事例に照らしても適正な面積であると考えています。

 また、現在の市庁舎は充分な耐震性がないことが判明しており、今年4月に発生した熊本地震における熊本県内の自治体庁舎の損壊状況を踏まえますと、災害発生時の防災拠点施設である市庁舎に防災上の不足があることは喫緊の課題と捉えていることから、安全・安心な市民生活の確保のためにも、新庁舎の建設につきましては、できる限り早く取り組む必要があると考えています。

3.本条例に対する考え

 本条例について、意見を申し上げます。

 第1条(目的)は、 「公会堂の解体中止と再使用について、住民の意思を確認することを目的とする」とされ、第2条(住民投票)では、単に「賛成」か「反対」かの選択肢を用いて投票を行う旨の規定が設けられています。

 先程述べましたとおり、請求代表者の旧公会堂を再使用する期間の考え方について、旧公会堂を新たな文化施設が完成するまで一時的に使用するのか、永続的に長期にわたり使用するのかが不明確であり、この選択肢では、住民の意思が正確に反映されないと考えています。

 第15条(投票結果の取扱い)では、 「市長及び市議会は、住民投票の結果を尊重する」と規定されています。

 今回の投票に際しては、一定の投票率と得票率を満たさなければ、住民の意思が反映されたということはできません。従って、住民の意思を適切に評価するための投票率と得票率の規定を設けることは、必須の要件であると考えます。

4 総括

 最後に、本条例の制定について、総括的な意見を申し上げます。

 本条例について、17,098人という多くの市民の皆さんが条例制定請求の署名をされた事実は、真摯に受け止める必要があると考えています。

 しかしながら、旧公会堂の廃止及び解体については、文化団体などの関係団体や市民のご意見、さらには議会での議論を踏まえ、慎重に検討を重ねて決定した経過があり、現在すでに廃止され、解体予算も可決されています。

 先程述べましたとおり、仮に、一時的に再使用するとした場合には、約13億円もの改修費を要し、外観を残し永続的に長期にわたっての使用を目指す場合は約31億円もの費用が必要ですが、それでもなお、文化施設としての課題を解消することはできません。このように多額の費用を投じたとしても、根本的な問題を払拭できないことが、旧公会堂の廃止を決定した最大の埋由です。

 加えて、公共ホールのあり方として 、旧公会堂の存続と新たな文化施設の建設を両立させることはあり得ないと考えており、これまでの方針に沿って、旧公会堂は解体し、新たな文化施設を建設することが、長崎市のまちづくりを着実に進めていくための、私の責務であると考えています。

 これらのことから、旧公会堂の解体中止と再使用については、認められないと考えており、住民投票を実施するための本条例の制定について、反対いたします。

 議員の皆様におかれましては、慎重なご審議を賜りますようお願い申し上げます。

 

平成28年9月1日

長崎市長 田上富久

投稿者

長崎都市遺産研究会
長崎都市遺産研究会

長崎都市遺産研究会は、都市の中で埋もれていたり、解体されようとしている貴重な建築遺産を発掘、保全し、次世代に継承するための支援活動を行う市民団体です。

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