長崎新聞2013年2月4日18面

残したい 建物や椴帳 貴重な文化財

長崎市は新庁舎を市公会堂敷地(魚の町)に建設し、公会堂に代わる文化施設を現庁舎跡地(桜町)に建てることを決めた。公会堂は50年以上、本県舞台芸術の発表の場として親しまれてきたが、取り壊される。識者からは「建築物の価値が高い」と存続を望む声も。地元表現者らは公会堂に愛着を感じる一方、新施設への期待を寄せている。

公会堂の歴史は古く、旧公会堂(栄町)は1930年12月18日に誕生。多くの市民に利用されたが45年8月、原爆による二次火災で消失した。

再建は市の財源不足で難航。しかし被爆から10年を機に「長崎に平和を象徴する国際文化施設を」との目的で官民一体となり長崎国際文化センターの建設を計画。その一つとして62年6月2日、現在地に落成した。

長崎市出身の建築家、武基雄がデザイン。59年に建てられた旧長崎水族館も武が手掛けた。敷地面積は3597平方メートル、鉄筋コンクリート造り5階建てで総工費約2億5千万円。座席数は1747。

内部にはポルトガル船出入港の様子が描かれた豪華な椴帳(どんちょう)がある。縦9.5メートル、横20メートル。制作費は845万円で長崎放送が寄贈。絵師、狩野内膳が描いた南蛮扉風(びょうぶ)をもとに京都の専門店がオランダ刺繍(ししゅう)を施した。

長崎歴史文化協会理事長の越中哲也さん(91)は「鍛帳には宣教師や教会が描かれ1603年ごろの長崎の雰囲気がよく出ている。残した方がいい」と話す。

1974年に市民会館文化ホール(魚の町、974席)、98年に長崎ブリックホール(茂里町、大ホール2002席)などが開館したが公会堂の利用状況は良好。2011年度の稼働率はブリック70.0%、公会堂59.3%、市民会館54.8%となっている。

公会堂に対し文化団体からは「市民会館より舞台が広くブリックほど大き過ぎず利用しやすい」という愛着と、楽屋が少なく設備が古いなどの不満もあり新施設への要望が相次いだ。

かとうフィーリングアートバレエ主宰の加藤久邦さん(81)は落成式で踊りを披露して以来、公会堂で100回以上公演。「ブリックにない回り舞台などの設備が魅力」としながらも「舞台機能の充実、バリアフリ―化、トイレ増設」などを求めた。

劇団「F’s company」代表で公会堂開館50周年記念事業実行委員長を務めた福田修志さん(37)は文化的な貢献を評価しつつ「新施設は大きな舞台の中規模ホールに。舞台設備には手動部分を残して」と注文。公会堂で舞台を担当した元職員の中尾恕さん(82)と出口誠一さん( 69)は「現場の声をくんだホールを。場所は今のままがいい」と話した。

老朽化は否めないが建て替える必要はあるのか。市は耐震診断をもとに、11年10月の公会堂等文化施設あり方検討委の資料で①耐震補強と大規模改修では約31億円(耐用年数で割ると年2億円)②建て替えでは約42億円(同、年0.6億円)―と試算。「耐雷橋強は投資効果が低い」と説明している。

だが公会堂は建築物として高い評価を得ている。近代建築の記録と保存を目的とする国際学術組織「ドコモモ」日本支部は03年に公会堂を日本の近代建築100選に選定。まちづくりに詳しい長崎市の1級建築士、鉄川進さん(56)は「被爆復興の時代を物語る貴重な建築物。文化財としての価値はこれから高まるのだから耐震補強して残すべき。壊すことは残念だ」と語る。

公会堂を跡形もなく取り壊すのか。50年の歴史を引き継ぐ新施設の構想は。市民がよく利用する場だからこそ、期待も高まっている。 (関根めぐみ)

公会堂存続の流れ

2004年01月:長崎商工会義所が「公会堂及び周辺地域の今後のあり方に関する要望書」を市に提出。市のグランドデザインを描き、公会堂は改修、補修し継続した使用をと要求。

2004年03月:公会堂存廃問題検討懇話会が市に報告書。「構造診断を実施、補修し中ホールにリニューアルするなど検討し現在地に存続すべき」

2009年6月~10年03月:市が市庁舎と公会堂を耐震診断

2011年02月:市が耐震化方針を表明。「市庁舎の建て替え計画の具体化と平行して、機能の確保の方法を検討」

2012年03月:公会堂等文化施設あり方検討委が報告書。「老朽化した公会堂に代わり専門性が高い利用にも対応ができる新しい文化施設が必要」

長崎新聞2013年2月4日18面

長崎新聞2013年2月4日18面

投稿者

長崎都市遺産研究会
長崎都市遺産研究会

長崎都市遺産研究会は、都市の中で埋もれていたり、解体されようとしている貴重な建築遺産を発掘、保全し、次世代に継承するための支援活動を行う市民団体です。

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