長崎市公会堂の解体中止と再使用に関する住民投票条例の反対意見書2回目(田上富久長崎市長2016.11.25)

田上富久長崎市長は、長崎市公会堂の解体中止と再使用に関する住民投票条例の請求に対し、平成28年11月25日の市議会本会議で、再度、反対を表明しました。市長提出の意見書全文を掲載します。

※尚、下記の意見書画像をクリックすると、PDFデータでもご覧いただけます。

2回目意見書ページ1

 

意 見 書

1 請求に対する考え

 長崎市の旧公会堂の解体中止と再使用に関する住民投票条例(以下「本条例」という。)は、現在、既に廃止され、解体予算が可決されている旧公会堂の解体中止と再使用することについて、住民投票により賛否を問うものです。

 これに対し、旧公会堂の解体中止と再使用に反対する立場から、本条例は制定すべきでないとの考えを表明し、以下意見を述べさせていただきます。

 旧公会堂の解体中止と再使用につきましては、本条例の制定請求に先立ち、平成28年8月に請求代表者から「長崎市公会堂の解体中止と再使用に関する住民投票条例」の制定請求が行われています。

 この条例案が審査された9月市議会定例会では、(1)旧公会堂の再使用を求める期間が不明確であり、市庁舎の建設場所の記載もされるなど、複数の要素が含まれており、署名した人々がどの部分に賛同したのかが住民投票の争点としては不明瞭であること、(2)旧公会堂については、建物の老朽化はもちろん、楽屋が少なく搬入口が狭くて危険であること、音響が悪くバリアフリーにも対応していないことなど、利用者と観覧者双方の視点で構造的な問題を多く抱えていること、(3)これまで「公会堂等文化施設あり方検討委員会」などの各種会議やアンケート調査などで、市民の意向を取り入れながら進めてきた経緯があり、アンケート調査では、旧公会堂の解体には一定のコンセンサスが得られていること、(4)市民の安心安全を守ることは行政の責務であり、旧公会堂跡地に防災機能を有した市庁舎を早急に整備することは、熊本地震や東日本大震災の教訓からも長崎市の喫緊の課題であることなどを総合的に勘案した結果として、「長崎市公会堂の解体中止と再使用に関する住民投票条例」が否決されています。

 次に、旧公会堂の廃止に係るこれまでの経緯につきましては、先の9月市議会定例会でも申し上げたところですが、本条例の制定請求に際し、改めて説明させていただきます。

 旧公会堂につきましては、平成21年度に実施した耐震診断の結果、大規模な地震に対する耐震性能が不足していることが判明し、また、応急処置的な修繕では問題を解決できないほど施設や設備機器の老朽化が著しく、施設の安定的な運営が難しくなっていました。

 さらに、現代の文化施設としては、座席配置が窮屈であること、トイレの数が少ないこと、バリアフリーに対応していないこと、搬入口や舞台袖が狭いことなど、機能的・構造的な問題点を多数抱えていました。

 そこで、平成23年度に「公会堂等文化施設あり方検討委員会」を設置し、旧公会堂が持つ文化施設としての機能や長崎市の将来の文化施設のあり方について、様々な角度から検討して頂きました。

 また、「市役所建替えなどに関する市民アンケート」においても、旧公会堂に関する長崎市の方針や必要な文化施設の機能などについてのご意見をお聞きするなどし、平成25年1月には、限られた財源と現在から将来に向けたまちづくりの考え方を勘案した結果、旧公会堂については解体し、新たな文化施設により市民の芸術文化活動の発表・鑑賞の拠点としての機能を確保すること、その整備場所は、現市庁舎跡地を念頭に考えることを方針決定いたしました。

 そして、平成26年6月市議会定例会において、「長崎市公会堂条例を廃止する条例」が附帯決議を付して可決され、平成27年3月末をもって旧公会堂は廃止しています。

 さらに、旧公会堂の解体工事費を含む関連予算につきましても、平成28年6月市議会定例会において、改めて現地調査を行うなど、丁寧な審議を経て可決されており、このように長い年月や経過を経て、現在に至っています。

 また、新たな文化施設の建設につきましては、現市庁舎跡地への建設と比較して早期の完成が見込めることなどを理由として、県との協議に取り組んでおり、現在、県が示したスケジュールに沿って、今年度内の整備方針策定に向けて県と協議を進めているところです。

 このように、旧公会堂の解体を中止し、再使用することは、これまで積み重ねてきた議論とその中で至った結論や方針決定に基づく市庁舎建替えなどの様々なまちづくりの取り組みにも影響を与えます。

 以上、長崎市が旧公会堂を廃止した理由、廃止が決定された経緯、新たな文化施設建設に向けた協議の状況及び旧公会堂が廃止され解体予算も可決されている状況を覆すことによる、今後のまちづくりに与える大きな影響を勘案しますと、旧公会堂の解体中止と再使用は認められないことから、住民投票を実施するための本条例の制定について反対するものでございます。

 

 2 請求の要旨に対する考え

 請求の理由について、意見を申し上げます。

 まず、「公会堂の建設経緯や現在それが有する建築的、都市遺産的、文化機能的な諸価値を総合的に勘案しますと、廃止や解体でなく、むしろ保存し今後も末永く活用すべき市民共有の資産と考えられます」との記載部分につきまして、意見を申し上げます。

 旧公会堂はあくまでも文化施設であることから、その第一義的な価値は、文化施設としての必要かつ十分な機能を有することであると考えています。

 仮に、旧公会堂を再使用する場合には、長崎市として、安全安心かつ安定的な運営を行い、市民の芸術文化活動や芸術鑑賞などに必要となる快適な環境を提供すべきものと考えますが、大規模改修を行ったとしても、解消できない課題が残り、現代の文化施設としての機能を十分果たせないことから、旧公会堂は廃止することとし、芸術文化の表現の場として十分な機能を備えた誰にとっても使いやすい新たな文化施設を整備することとしたものです。

 また、請求代表者が訴える旧公会堂の価値につきましても、先程述べましたとおり、「公会堂等文化施設あり方検討委員会」や「長崎市公会堂条例を廃止する条例」の議会審査において、十分に認識されたうえで議論がなされています。

 さらには、前回の「長崎市公会堂の解体中止と再使用に関する住民投票条例について」の議会審査においても、同様に議論が行われたところです。

 次に、「耐震補強や設備更新を含む大規模な改修を実施すれば、存続・再生は十分可能である、かつ同程度の機能を有する施設を新築するよりも工事費用が安価で済むことは明白であります」との記載部分につきまして、意見を申し上げます。

 旧公会堂をその外観を残したまま、建物を存続させるためには、耐震補強を含む大規模改修を行う必要がありますが、その場合においても、敷地の制約や建物の構造上の問題から、文化施設としての課題の全てを解消することはできません。なお、このことは、請求代表者も前回の「長崎市公会堂の解体中止と再使用に関する住民投票条例」の意見陳述及び質疑において、25億円をかけて改修しても80パーセント程度の改善に留まり、旧公会堂の不備の全ては解消できないことを認めています。

 従って、旧公会堂の問題点を解消し、誰もが使いやすく質の高い文化施設を建設することは、芸術文化活動に情熱を注ぐ人たちや芸術鑑賞を楽しむ人たち、さらには質の高いプロフェッショナルな公演を創り上げ提供してくれる人たちにとっても、将来を見据えた最良の方法だと考えています。

 

 3 本条例に対する考え

 本条例について、意見を申し上げます。

 第15条(投票結果の取扱い)では、「市長及び市議会は、住民投票の結果を尊重する」と規定されています。

 この住民投票が、旧公会堂の解体中止と再使用について住民の意思を確認することを目的として行う以上、一定の投票率と得票率を満たさなければ、正確な住民の意思が反映されたということはできません。住民の意思を適切に評価するための投票率と得票率の規定を設けることは、必須の要件であると考えます。

 

 4 総括

 最後に、本条例の制定について、総括的な意見を申し上げます。

 旧公会堂の解体中止と再使用を求める住民投票条例の制定に係る直接請求が2回目であること、また、17,204人という多くの市民の皆さんが条例制定請求の署名をされた事実は、真摯に受け止める必要があると考えています。

 しかしながら、「旧公会堂の廃止及び解体」については、文化団体などの関係団体や市民のご意見、さらには議会での議論を踏まえ、慎重に検討を重ねて決定した経過があり、現在既に廃止され、解体予算も可決されています。

 また、先程述べましたとおり、9月市議会定例会における前回の「長崎市公会堂の解体中止と再使用に関する住民投票条例」については、住民投票を行うための争点が不明瞭であったことだけではなく、様々な視点からの議論を経て、総合的に勘案した結果として否決されました。

 そして何よりも、長崎市が旧公会堂の廃止を決定した最大の理由は、多額の費用を投じ、その外観を残した大規模改修を行っても、文化施設としての課題は残り、根本的な問題を払拭できないことです。

 従って、旧公会堂は解体し、将来にわたって文化活動や芸術鑑賞を楽しむことができる環境を整えるために、誰もが使いやすく質の高い新たな文化施設を建設することが必要だと考えています。

 また、解体後の旧公会堂跡地に建設する方針の新市庁舎につきましても、現在の市庁舎は充分な耐震性がないことが判明しており、今年発生した熊本地震における自治体庁舎の損壊状況を踏まえますと、災害発生時の防災拠点施設である市庁舎に防災上の不足があることは喫緊の課題と捉えていることから、安全・安心な市民生活の確保のためにも、新市庁舎の建設につきましては、できる限り早く取り組む必要があると考えています。

 このように、将来を見据え、議論を尽くした結果、決定してきた方針に沿って、長崎市のまちづくりを着実に進めていくことが、私の責務であると考えています。

 従いまして、旧公会堂の解体中止と再使用については認められないと考えており、住民投票を実施するための本条例の制定について、反対するものです。

 議員の皆様におかれましては、慎重なご審議を賜りますようお願い申し上げます。

 

 平成28年11月25日

 長崎市長 田上 冨久

投稿者

長崎都市遺産研究会
長崎都市遺産研究会

長崎都市遺産研究会は、都市の中で埋もれていたり、解体されようとしている貴重な建築遺産を発掘、保全し、次世代に継承するための支援活動を行う市民団体です。

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