「復刻 長崎国際文化センター建設計画資料」と「復刻 長崎国際文化センターの歩み」発行にあたって
本書は、被爆し壊滅的な被害を受けた長崎の復興がどのような思想・構想のもとに行われたものであったかを示す、貴重な記録である。
『長崎国際文化センター建設計画資料』の核として収録した資料『長崎国際文化センター建設計画の概要』の冒頭には、被爆し闘病しながらも診療にあたった、永井博士の遺詠「あたらしき あしたの光 さしそえる 荒野に響け 長崎の鐘」が掲載されている。またその趣旨文は、被爆以前からの長崎が果たした歴史を振り返り、長崎を世界文化都市と築き上げるべく、その理念を指し示したものであり、翻訳され、国際文化都市としての復興を世界中に宣言した崇高なマニフェストといえる。その趣旨にそって遂行された諸施設の建設は、被爆後、約10年間の期間を経て、厳しい財政の中から官民一体となって計画された大事業であった。何故、被爆後10年も経っての計画となったのか。原爆によって焼土化した土地は市街地の47%、203万坪にも及んだ。当初、復興土地区画整理事業では5年間での計画が立案されていたが、事業は難航し、10年経過しても7割にも達していなかったため、建築や施設整備を伴った事業にようやく着手できるまでに10年の期間が必要であったのである。“ やっと真の復興に取り掛かれる” という思いは、『長崎国際文化センター設置計画の概要』の趣旨に記された、「恒久平和の理想を達成することは、真に、長崎市民に負わされた神の使命であると思われる」というくだりにも象徴されており、その強い意志や希望が読み取れる。
『長崎国際文化センターの歩み』は、長崎の戦後復興の歴史において極めて貴重な建造物である長崎国際文化センターの建設完了記念として、昭和41年3月、建設委員会によって発行されたものである。本資料の存在をご教示下さったのは、長崎市庁舎の新築にともなって解体の危機にさらされている長崎市公会堂の問題を報じた2014年4月9日付の長崎新聞の記事をご覧になった、故大野寅之助氏長女・森須磨子様であった。われわれ長崎都市遺産研究会では、同年5月23日開催の「残さんばさ公会堂トークライブ」にあわせ発行を予定していた、「復刻長崎国際文化センター建設計画資料」に本資料の一部を急遽掲載し、あわせて全体も復刻することとなった。先に紹介した長崎新聞記事で取材を受けられた小田浩爾氏もその貴重な資料に驚き奔走され、御友人である本田文昭氏の協力を得て、本書発行の運びとなった。
本構想によって生まれた多くの建造物が失われ、その記憶も薄れていく中、我々は、“文化による復興”という理念を、世界中の人々に発信し続けていかねばならない。来る2015年、原爆被爆から70年を迎えるにあたり、長崎国際文化センターの建設がどのような意義をもつものであったかをもう一度思い起こし、残された貴重な建造物を保存・継承する責務が、長崎市民には課せられているのである。
最後になりましたが、資料の発掘や提供、ご協力いただいた関係諸氏に心から感謝申し上げます。
長崎都市遺産研究会 代表 林一馬副代表・復刻発行責任者 中村享一
長崎都市遺産研究会・編発行者 長崎都市遺産研究会発行所 〒850-0065 長崎市入船町7番5号 電話095(861)8626制作 藤村興晴(忘羊社)印刷・製本 総合印刷イナサプリント ©Kyoichi Nakamura printed in Japan, 2014領価 各500円(税込)
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